膝関節への関節腔内注射
ヒアルロン酸を関節腔内に注入
ヒアルロン酸は糖の一種であり、糖鎖と呼ばれる長い鎖のような構造の物質です。特徴的な性質として、水分を大量に保持できることがあげられます。人間の体の中では、目や関節、皮膚などのさまざまな部分にたくさん存在しています。
加齢や病気などにより、関節が痛む、動かしづらいといった症状が出る場合があります。その治療の1つとしてヒアルロン酸を関節腔内に注入し、患部の痛みと炎症を和らげ、動きを滑らかにするものがあります。
関節腔内注射の効果
関節は骨と骨のつなぎ目部分で、骨以外に軟骨や滑膜と、関節の袋の「関節包」といわれるものに覆われています。この関節包の中へ注射するのが、関節内注射です。関節包内に痛みの原因がある場合(関節炎、変形性関節症など)に効果があります。
初期の痛み、軽症であるうちに行う方が大きな効果があると考えられていますが、炎症を抑制する働きもあるので、症状がある程度進行していても効果はあります。ヒアルロン酸には副作用がほとんどないため、関節痛に悩む方の治療に幅広く使用されています。
関節腔内注射の副作用
関節腔内注射をするうえで最も危険な合併症は、菌などへの感染です。関節の中は血流が少なく、心臓、腎臓などの臓器と比べるとかなりの無菌状態が保たれていますが、同時に感染にはたいへん弱くなっているのです。そのため、関節腔内注射をするときは感染の危険性を極力減らすため、皮膚を清潔に保つことが必要となります。
注射当日の注意点
関節腔内注射をする前には石けんなどで、皮膚の汚れ・垢をきれいに落として清潔に保っておきます。
注射をした後は入浴したり、シャワーを浴びたりすることはできますが、注射をした部分を強くこすったりしないでください。感染は注射の針穴から細菌が入るわけではなく、針を刺すときに皮膚の上に付いている細菌を、針で関節内に押し込んでしまうことで発生するからです。
注射をしたところが赤くなる、注射の前よりも痛みが強くなる、腫れている、熱が出るなどの症状が出た場合は、すぐに受診してください。
変形性膝関節症
変形性膝関節症の症状
変形性膝関節症は、膝関節のクッションである軟骨がすり減って関節炎や変形を生じ、痛みが起きる病気です。女性に多くみられ、高齢になるほど多くなります。
初期では、立ち上がるときや歩き出すときなど、動作の始まりにのみ痛みがあります。痛みは休めばとれますが、中期では正座や階段の上り下りが難しくなり、末期では安静にしていても痛みがとれず、変形し、膝が伸びず歩行自体が困難になります。また、膝に水が溜まることもあり、O脚やX脚になるなどの症状もみられます。
変形性膝関節症の原因
関節軟骨が老化することや、肥満や遺伝的要因も関係します。それ以外には骨折、靭帯や半月板損傷といった外傷が原因でも起こりますし、化膿性関節炎など感染症の後遺症で発症する場合もあります。加齢が原因となるものでは、関節軟骨が弾力性を失い、徐々にすり減り、変形がみられます。
変形性膝関節症の治療
症状が軽ければ外用薬や痛み止めの内服薬を使用したり、ヒアルロン酸の関節腔内注射などを行ったりします。また、大腿四頭筋の強化訓練、関節可動域を改善させる訓練など、運動器リハビリテーションを行ったり、膝を温めるなどの物理療法を行ったりします。加えて、足底板や膝装具を用いることもあります。
このような治療をしても改善がみられないときは、手術を検討する場合があります。手術の方法には、関節鏡(内視鏡)手術や、高位脛骨骨切り術(骨を切り、変形しているところを矯正する)、人工膝関節置換術と呼ばれるものなどがあります。
初期のうちに体重を減らす、普段の靴を見直す、負荷がかからない運動をして筋力を増やすなど、膝への負担を軽減することも大切な治療の1つです。